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The Japanese Association for Rural Studies
[English]

ブックガイド


宇山満 著
『食と農の環境経済学 持続可能社会に向けて』(食と農の教室3)
(昭和堂、2016年)

 本書は「食と農の教室」シリーズの第3巻にして、同シリーズ初の単著である。単著ゆえの一貫性の高さと、シリーズ全体に共通する初学者にとっての親しみやすさが、本書の特徴である。
 意外なことに、農業環境問題について、経済学的な分析手法を含めて解説する単著の入門テキストは、これまでほとんど見当たらなかった。環境問題を扱う農業経済学の書籍は少なくないが、それらはミクロ経済学の予備知識を何がしか前提とした分析か、逆にそれを要さない国内外の情勢・事例の解説のいずれかに属するものが多かった。他方、環境経済学の基礎テキストでは、農業の問題は応用の領域に入るためか、あまり取り上げられない。この分野の入門にあたっては、環境に対する経済学的アプローチの視点や手法と、農業独特の問題構造や政策手法を、それぞれ別のテキスト、異なる著者から学び取る必要があったのである(一定の学習水準を越えれば、こうしたことは当然求められてくるのだが)。
 これに対し本書は、環境問題の経済学的分析のイロハから、農業分野で実際に生じている具体的な事象の紹介、事例分析、政策論までを、一冊の書籍の中で、一貫した視点、著者が言うところの「経済学の眼」(p.B)に依拠して解説している。
 前半(第T部)では、経済学の基本的な考え方に始まり、余剰分析、外部性、コースの定理といった環境経済学の基礎的な枠組みと概念が解説されている。続いて後半(第U部)では、農業分野における環境問題の諸局面、それらのとらえ方や対処の方策が、こうしたテーマに初めて触れる読者をもおそらくは念頭に置いて、ていねいに説明されている。後半に登場するトピックは、廃棄物市場(第6章)、農業環境政策(第7章)、生産物認証(第8章)と多様であり、事例分析なども登場する。そこで導きの糸となるのは一貫して、第T部で説かれる枠組みと概念である。
 このような構成を持つ本書を通読すれば、農業環境問題について、ひととおりの視点と知識を身に着けられる。初学者であれば、通読それ自体の達成感を本書から得ることもできるだろう。これは単著であればこその利点である。加えて、上記のような構成は、学問的応用の作法を学ぶ上でも有益である。体系的な学(経済学)をツールとして現実の事象(農業環境問題)を理解し、よりよい解決策(農業環境政策)を検討するという手続きの一端を、垣間見ることができるからである。
 さらに、学習意欲をかき立てる様々な工夫がなされていることも、本書の特徴の一つである。「ギモンをガクモンに」として、各章の扉に主題となる問いが記されているほか、巻末に文献リスト、各章末には用語解説が付されている。
 本書から得られた視点と知識、達成感を糧に、より専門的な文献へと進めば、本書の平易な記述のバックボーンである学問の深みと研究蓄積の厚みを、(再)発見できるはずである。
(桑原考史)  

伊庭治彦・高橋明広・片岡美喜 編著
『農業・農村における社会貢献型事業論』
(農林統計出版、2016年)

   市町村合併による行政サービスの低下は、地域コミュニティや自治体が担ってきた公益的な事業の縮減を招き、産業としての農業、生活の場としての農村の衰退化と、地域社会における厚生の低下を生じさせた。この現状に対して、各地で農業生産活動や農村生活の特徴を活かしながら、地域内のニーズや公益に資する新たな仕組みや事業が創出されている。世界に目を向けてみても、グローバル化と新自由主義の進展は、地域社会においてはある種のひずみとして現れ、農や食に関わる分野からの社会的包摂に関する活動として実践が試みられている。本書ではこうした動きを「農業・農村における社会貢献型事業」と位置づけて、その展開の動向と可能性を考察するものである。
 本書の特徴は、農業・農村における社会貢献型事業という、すでに存在しているが様々に評することができる現象について、理論面と事例提示から、なるべく読者に分かりやすく示そうと試みた点にある。第1部の理論編では、社会貢献型事業の背景となる諸要素を整理している。まず、同概念と類似概念の整理、経営形態や展開論理、事業組織への言及、社会的背景のなかでも新自由主義の歴史的展開からの説明を行っている。
 第2部の事例編では、おもに取組主体別で事例を挙げ、農業・農村における社会貢献型事業を担う多様な主体や取組の形を垣間見せている。集落営農の事例では、日本の農村を支えてきた兼業農家層がリタイア間近になるなかで、農作業の共同化や委託化だけではなく、地域生活を支える事業展開(高齢者の見守り、家事援助など)を示した。協同組合が主体となっている社会貢献型事業では、従来までは組合員の「共益」のための事業展開であったものから、当該生協や農協が位置する地域の問題に目を向け「公益」となる事業展開をしたことで、協同組合活動の促進と新たな可能性を見出している。農村女性起業を中心とした地域発のソーシャル・ビジネスの事例からは、事業実現を行うなかで組織化が図られ、ビジネスとして農村のもつ社会的価値が評価されたことで、事業活動を通じた地域の再編と対流を促している状況を示した。
 事例編の後半では海外の動向として、米国の事例を2つ紹介している。家族経営農場による再生可能エネルギープロジェクトと、地域の小規模・中規模農家を実需者や消費者とをマッチングさせるフードハブを挙げている。
 ここで私は自著をブックガイドしているわけだが、正直なところを申し上げると、出版に向けた締め切りなどの都合もあり、本書で充分に「農業・農村分野における社会貢献型事業」を整理し、まとめきれたとは言い切れないと編著者のひとりとして自戒している。構成についても一考の余地があるだろう。だが、現代の農業・農村に現れている社会的なミッションを帯びたビジネスの態様を、読者の皆様に提起したいという意欲的な書であることを申し添え、本書の紹介を締めくくりたい。
(片岡美喜)

明峯哲夫
『明峯哲夫著作集 生命を紡ぐ農の技術』
(コモンズ、2016年)

 本書は、2014年9月に急逝された明峯哲夫さん(農業生物学研究室主宰)の代表的な論稿を収録した著作集である。
 プロローグ「自然保護から自然奪還へ」では、明峯さんの活動の原点といえる人間と自然の新しい関係性の必要性が論じられている。そのような問題意識が自給農場運動へと結実していく。
 第T部「たまごの会を創って離れる」は、卵の共同購入に取り組んだたまごの会による消費者自給農場の建設、第U部「街人よ耕せ」では、明峯さんがたまごの会八郷農場を離れて創ったやぼ耕作団による新たな自給農場運動の展開が耕す市民の形成とともに描かれている。
 明峯さんは、自給農場をつうじた農のある暮らしづくりと同時に、新たな学問体系である人間と生き物が共生する農業生物学の構築を目指していた。第V部「有機農業の技術と思想」では、植物の生命力を完全に無視し、農業が自然から離反していく多投入型の農業技術ではなく、植物が植物自身の力で生きていくことを尊重し、その力を最大限に引き出す低投入型の農業技術のあり方を示している。明峯さんの最後の仕事は、秀明自然農法調査研究プロジェクトであり、自身の理論を大きく飛躍させた。
 第W部「まちの自給、むらの自給」は、やぼ耕作団のフィールドであった東京都日野市と東洋大学福祉社会開発研究センターの客員研究員として調査研究を行った新潟県旧山古志村を事例に、都市と農山村における自給の社会化について提言し、耕す市民の実践を農のあるまちづくり・むらづくりへと大きく展開させていった。
 エピローグ「天国はいらない、故郷を与えよ」では、2011年3月に起こった福島第一原子力発電所の事故を受け、「故郷(地域)」に還って自然と共生する暮らしの再生を願い、「逃げるな、それでもまた明日、種を播こう」と最後まで農的暮らしの重要性を訴えた。
 明峯さんは、農と自然に寄り添う暮らしを実践する耕す市民として、在野の研究者・活動家として農の営みの本質から人間、そして社会のあり方について考察を重ねてきた。その軌跡を辿ると、生きることそのものとしての農を自ら体現し、農という生き方の選択肢があることを社会に発信し続けてきた姿が見えてくる。
 収録されている論稿の領域は、実に幅広い。現代農学は分化と専門化が進み、各研究領域の相互関係が失われているといえるが、耕し、考え、理論化する実践的研究者として農の営みを総合的に捉える明峯さんの姿勢は、研究者のあり方までも問うている。
 明峯さんの遺作は、『有機農業・自然農法の技術−農業生物学者からの提言−』(コモンズ、2015年)である。このなかには、自身の言葉でこれまでの歩みを振り返る第5章「農業生物学を志して」も収録され、本書とともに併読されると、明峯さんの思想と実践をより深く理解することができる。
(小口広太)

玉里恵美子
『集落限界化を超えて−集落再生へ 高知から発信』
(ふくろう出版、2009年)

  農村集落の存続可能性が問われるようになって久しい。こうした問題は、昨日の今日の問題ではなく、1960年代から「過疎」問題として問題化され、1980年代には「限界集落」問題として世間の耳目を集め、行政用語にもなっていった。そして、現在は「消滅可能性」問題となっている。本書は、「限界集落」概念が生まれるきっかけともなった高知県の農山村を、著者が歩く中から得た知見を基に書かれた論考を中心に編まれている。その点からは、「限界集落」問題の先進事例を取り上げたものと言えるであろう。
 本書は、研究者対象ではなく、一般向けに書かれているということもあり、第一部は「農村社会の基礎知識」として“自然村”“家”“ムラ”とは何かが詳述される。第二部は「限界集落の実態」として、 “集落の状況”を東北圏と四国圏との比較、高知県の状況、大豊町の集落を通じて捉えていく。そして、“集落限界化の実態”を生活問題と地域福祉の課題から捉える。その上で、学生が社会調査実習を通じて、集落の現況をどのように捉えたのかを記述する。第三部は、本書のタイトルにもなっている「集落限界化を超えて−集落再生へ」として、地方自治体の行政計画および各地での実践事例を取り上げて検討を加えていく。その上で、集落再生のための具体的な方策を探っていく。詳細については、本訴を読んでいただきたいが、非常に分かりやすく書かれている。なお、専門的な分析については、著者が、2009年に昭和堂から上梓した『高齢社会と農村構造―平野部と山間部における集落構造の比較―』を読んでいただきたい。
 このような書物は、世に多く出ているが、本書の特色は、著者が農村社会の研究者であると同時に、農村社会に生活する一人の生活者であるという点にあるだろう。研究のための場であるだけではなく、生活の場であるという視点を有することで、そこに生きる人びとの心情の機微を描き出している。それゆえに、巻末に書かれている新規就農者が農業だけではなく、農村社会にも目を向けることができるようになると良いという言葉が印象に残る。
(牧野修也)

龍谷大学農学部食料農業システム学科編著
『食と農の教室2 食・農・環境の新時代:課題解決の鍵を学ぶ』
(昭和堂、2016年)

 近年、TPPや食品偽装問題などがメディアを賑わし、食に関する問題があらためて注目を集めている。本書は、2015年に新設された龍谷大学農学部食料農業システム学科の教員によって、食と農、そして環境についての重要かつ現実的な課題を学ぶことができる入門書として、まとめられたものである。同時刊行された第1巻が、食・農・環境に関する基本的な知識について取り上げていることに対し、本書は、経済学・経営学・社会学などの観点から食・農・環境をめぐる現代的な課題やそれ生み出された経緯、さらに、それらを解決するためのアプローチを示し、理解を深めることが意図されている。
 各章の具体的な問いは、扉のページとして位置付けられている「ギモンをガクモンに」から知ることができる。たとえば、「農業をしているのは誰?農家?加工食品を作っているのは大企業?」(第1章)、「食べ物はどうやって食卓に運ばれてくるの?どうして今の仕組みになったの?」(第3章)、「技術進歩って、いいことづくしなのだろうか?」(第4章)というように、多くの読者が当たり前に思っていることや日常的に意識していないようなことに疑問を投げかけたり、JAバンク、JA共済(第2章)などテレビなどでよく耳にしているものの、実はその実態についてはあまり理解できていなかったりするような部分へと、読者の関心を引き寄せ、そこを学びの出発点としている。また、第5章では、わたしたちの日々の暮らしとそれを支える環境との接点を農業という営みから紐解き、他方、第6章では、よりマクロな問題として、環境を守るということに目を向けて、そのための政策や制度の設計について論じるなど、ローカルな視点とグローバルな視点双方を掘り下げることの意義についても示している。
 食・農・環境をめぐる課題について基礎的なことはすでに第1巻でまとめられているものの、本書において扱うテーマについても基本的な情報提供は必須となる。よって、読者には、第1巻と第2巻とを相互補完的に位置付け、通読することが求められる。また、具体的な事例を示すほど、アプローチの汎用性は限定的なものとなってしまう嫌いがある。日本での「成功」事例が、他の社会にも適用するとは言えない。そうした点を本文のなかで明示することができれば、さらによかったと思われる。
 すでに第3巻『食と農の環境経済学』が2016年11月に刊行されたように、今後も『食と農の教室』は第4巻、第5巻・・・とシリーズとしてつづいていき、第1巻および第2巻のなかで示された重要課題への社会科学からのアプローチがより深められ示されていくことになる。それらを手に取ることで、読者は食・農・環境を学ぶ意義やその学びを社会にフィードバックすることのおもしろさに気づいてもらえるのではないだろうか。
(中川千草)

小田滋晃、長命洋佑、川崎訓昭、坂本清彦編著
農業経営の未来戦略U 躍動する「農企業」 ガバナンスの潮流』
(昭和堂、2014年)

 本書は、2部構成である。第1部では、第1に「農企業」を巡る重層的ガバナンス、コーポレートガバナンス、ファミリーガバナンス、集落ガバナンスのあり様の検討、第2に重層的がバンスに派生する多様なコンフリクトに着目し、農企業とそれを取り巻く諸主体との関係についての検討、第3に多様な農業経営体間のネットワークについて整理・検討を行っている。本書では、とりわけ6次産業化事業に焦点をあてている。第2部では、農企業の軌跡(実践・理論総合編)と題しており、第2部はさらに2つのテーマ、実践・理論総合編と実践報告編に分かれている。加えて、いくつかのコラムからなっている。本書については、先進事例が多数掲載されていることに特徴があると思われるため、紹介している先進事例について列挙しておきたい。有限会社るシオールファーム(滋賀県)、株式会社ぶどうの木(石川県)、農業生産法人王隠堂農園(奈良県)、菜の花プロジェクト(三重県)、兵庫野菜農家ネットワーク太陽の会(兵庫県)、有限会社山口農園(奈良県)、コウノトリ育むお米(兵庫県)、つくばテクノロジーシード株式会社(茨城県)、株式会社ぶった農産(石川県)、株式会社滋賀有機ネットワーク(滋賀県)、農業生産法人こと京都株式会社(京都府)農事組合法人酒人ふぁーむ(滋賀県)、(有)しまだファーム(滋賀県)、ふるさとづくり上高尾の会(三重県)、ブランド京野菜(京都府)、フルーツトマト原田トマトの加工品(徳島県)、有限会社柚冬庵(徳島県)、農業生産法人株式会社「黄金の村」(徳島県)、有限会社丸浅苑(徳島県)、ファースト園芸(徳島県)、石井養豚センターリーベ・フラウ(徳島県)である。これらの経営内容については、本書を一読してほしい。
 聞いたことのある農企業もあれば、知らなかった事例もある。全国的にみると、本当に数多くの農企業が誕生していることがわかる。少しずつ農村の様相が変化する中で、生き残りをかけた農企業のビジネス内容がその事業規模の大小はあるものの、多数誕生していたところに、「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律(通称:六次産業化法)」が成立されてことによる注目度の高まりがあり、ますます躍動していると考えられる。タイトルにもあるように農企業は「躍動」しているところであり、これからも農企業の取組みに目が離せない。その躍動がより飛躍するためには、本書で取り上げられていたキーワード「企業間ネットワーク」の取組みの拡大が鍵になるであろう。ネットワークを構築するには、様々なコンフリクトも生じる。本書は農企業のネットワークの可能性について、実践者の言葉や行動を元に総合的に探求した興味深い内容の書であった。
 (中村貴子)

龍谷大学農学部食料農業システム学科編著
『食と農の教室2 食・農・環境の新時代:課題解決の鍵を学ぶ』
(昭和堂、2016年)

 近年、TPPや食品偽装問題などがメディアを賑わし、食に関する問題があらためて注目を集めている。本書は、2015年に新設された龍谷大学農学部食料農業システム学科の教員によって、食と農、そして環境についての重要かつ現実的な課題を学ぶことができる入門書として、まとめられたものである。同時刊行された第1巻が、食・農・環境に関する基本的な知識について取り上げていることに対し、本書は、経済学・経営学・社会学などの観点から食・農・環境をめぐる現代的な課題やそれ生み出された経緯、さらに、それらを解決するためのアプローチを示し、理解を深めることが意図されている。
 各章の具体的な問いは、扉のページとして位置付けられている「ギモンをガクモンに」から知ることができる。たとえば、「農業をしているのは誰?農家?加工食品を作っているのは大企業?」(第1章)、「食べ物はどうやって食卓に運ばれてくるの?どうして今の仕組みになったの?」(第3章)、「技術進歩って、いいことづくしなのだろうか?」(第4章)というように、多くの読者が当たり前に思っていることや日常的に意識していないようなことに疑問を投げかけたり、JAバンク、JA共済(第2章)などテレビなどでよく耳にしているものの、実はその実態についてはあまり理解できていなかったりするような部分へと、読者の関心を引き寄せ、そこを学びの出発点としている。また、第5章では、わたしたちの日々の暮らしとそれを支える環境との接点を農業という営みから紐解き、他方、第6章では、よりマクロな問題として、環境を守るということに目を向けて、そのための政策や制度の設計について論じるなど、ローカルな視点とグローバルな視点双方を掘り下げることの意義についても示している。
 食・農・環境をめぐる課題について基礎的なことはすでに第1巻でまとめられているものの、本書において扱うテーマについても基本的な情報提供は必須となる。よって、読者には、第1巻と第2巻とを相互補完的に位置付け、通読することが求められる。また、具体的な事例を示すほど、アプローチの汎用性は限定的なものとなってしまう嫌いがある。日本での「成功」事例が、他の社会にも適用するとは言えない。そうした点を本文のなかで明示することができれば、さらによかったと思われる。
 すでに第3巻『食と農の環境経済学』が2016年11月に刊行されたように、今後も『食と農の教室』は第4巻、第5巻・・・とシリーズとしてつづいていき、第1巻および第2巻のなかで示された重要課題への社会科学からのアプローチがより深められ示されていくことになる。それらを手に取ることで、読者は食・農・環境を学ぶ意義やその学びを社会にフィードバックすることのおもしろさに気づいてもらえるのではないだろうか。
(中川千草)

龍谷大学農学部食料農業システム学科編
『食と農の教室1 知っておきたい食・農・環境−はじめの一歩』
(昭和堂、2016年)

  本書は、2015年に開設された龍谷大学農学部食料農業システム学科の教員陣によって刊行された「食と農の教室」シリーズの第一作目である。シリーズ二作目にあたる『食・農・環境の新時代』も含め、新設まもない2016年の出版は、35年ぶりに農学部が誕生したという熱気(勢い)によるところが大きいかもしれないが、学科全教員が協力して執筆したことに、学科の覚悟を感じさせる。
 とくに本書では、「農学部」という学部が今になってなぜ設立されたのか、その意義について触れられている。代表は1章と10章である。
 1章では現代における農学の可能性について論じられている。世界規模での食料の調達と販売が進むなかで、食(の消費)と農(作物の生産)のつながりが見えにくくなっていることが問題意識の根底にある。食と農をめぐる様々な問題を精確に捉え、解決の道を模索するうえで、自然科学から社会科学や人文科学を含めた、より広い領域を扱った学問が必要とされていると、1章は主張する。
 10章では、いかに農学が社会に求められているかが論じられている。学問領域として広く、多様性をもっている農学は、「世の中のすべてが詰まっている学問」(p209)であり、社会で求められる能力(「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」)を養成する場であると指摘される。
 龍谷大学農学部が農作物の生産・加工・流通・消費・再生までの一連の流れを学ぶ「食の循環実習」を目玉の一つとしていることは、上記の章で指摘されていることや本シリーズ全体の問題意識と重なっていると言えるだろう。
 他の章についても簡単に紹介しておこう。本書は、1章と10章に挟まれる形で、第T部「食・農・環境の今をみる」と第U部「歴史や文化からみる」がおかれている。第T部は、国内外の食や農の現状が紹介されている。自由貿易と農業保護(2章)、日本の農業(3章)やアフリカの農業(4章)の実態、環境問題(5章)が扱われ、食や農に関心を抱いている人やこれから勉強を始める人のための基礎的な情報を提供してくれる。
 第U部は、日本の農業や社会の歴史(6章)、遊牧民と農耕民の歴史(7章)、農林水産業に影響を与える環境史(8章)、食の循環全てにかかわる文化(9章)の視点から、食と農を捉えている。農学という領域の広さと、執筆陣の多彩さが窺い知れる。
 この他にも先生と学生のやりとりを通して各章へ誘う「ギモンをガクモンに」、独自の視点から本書を紹介する「わたしの読み方」が、食と農に関する問題を分かりやすく伝えようとする本書のコンセプトを体現している。それらも合わせておすすめしたい。
 本シリーズは、以後、年2冊の出版を目標に、各教員の単著が続くことになる。龍谷大学農学部ともどもぜひ注目してほしい。
(坂梨健太)

アルリンド・クーニャ、アラン・スウィンバンク著 市田知子・和泉真理・平澤明彦訳
『EU共通農業政策改革の内幕―マクシャリー改革 アジェンダ2000 フィシュラー改革―』
(農林統計出版、2014年)

 本書はAn Inside View of the CAP Reform Process :Explaining the MacSharry, Agenda 2000, and Fischler Reforms(2011年) の全訳である。現在の日本農業において、中山間地域対策、環境保全型農業、グリーン・ツーリズム、地域食品のブランド化、所得補償政策など、ヨーロッパの農業や農政に学ぶことは多い。一方で、その基礎となる共通農業政策(CAP)の仕組みは複雑を極めるため、体系的に解説した邦文の書物が乏しい。
本書は、1990年代からCAPの一連の改革に実務者として関わった経験のあるポルトガル人、クーニャ氏が主著者となり、その学位論文の指導と審査を行ったスウィンバンク教授が副著者となって編まれた。CAP改革の経緯、改革に対する有識者の評価、今後の展望と、時代順に記述されており、比較的平易な文体で書かれている。
以下、内容を章別に紹介する。「第1章 CAPと本書へのいざない」では、本書の目的として、1990年代以降の農政改革に焦点をあて、政策決定の仕組み、背景を、政策決定に関わった著者自身の経験をふまえ、政治経済学の「非定型的アプローチ」により明らかにすることが示される。「第2章 EUの政策決定機関とCAPにおける役割」では、EUの主要な意思決定機構である欧州委員会、農業委員会、理事会、欧州理事会、欧州議会それぞれが、1960年代からCAPに与えてきた影響を分析する。「第3章 CAPの意思決定に影響を及ぼそうとする農業者と諸外国」では、EU内の農業者団体(COPA等)と、外圧をもたらすEU域外諸国、国際機関(WTO等)が、90年代以降のCAP改革にどのような影響を与えてきたかを分析する。「第4章 CAP改革における交渉の実際」では、CAPの政策決定過程を実態の面から分析する。「第5章 1992年のマクシャリー改革」、「第6章 1999年のアジェンダ2000改革」、「第7章 2003年のフィシュラー改革」では、それぞれの農政改革における経済的・社会的背景、改革の過程、改革に影響を与えた要因が詳細に分析される。まさに「内幕」である。「第8章 CAP改革の決定要素を探る:主要意思決定者に対するデルファイ調査」では、3つのCAP改革について関係者の意見を聴取し、その決定要素を探る。著者らはEU15ヶ国から各国の大臣、官僚、EUの官僚の合計53名をパネルとして選び、デルファイ法による調査を行った。その結果、いずれの改革においてもEUの農業委員が主導権を握り、改革の動機付けとしてはGATTまたはWTO交渉、EU拡大、財政制約の順に大きく、環境団体、メディア、一般市民の意見の影響は増大していること、農業者団体、食品業界、消費者、学者の影響は一貫して小さいこと、そして交渉の最終局面では「ヨーロッパ的な政策決定手法」という、政治的に受容可能な状態に向けて調整していたことがデータによって示される。「第9章 2003年以降:ヘルス・チェックから新たな不確定性「ポスト2013年」まで」では、原著の出版時点では構想段階にあった「ポスト2013年」改革案とその実現可能性について論じられる。「第10章 結論:知見と展望」では、国際的に政治的不安定要素が増す中、そして気候変動や地球温暖化を緩和するためにも、EU農業政策の果たすべき役割が大きいことが強調されている。
本書の特徴は、実務者しか知り得ない内部事情が随所に記されていることである。訳者らはその点に魅かれて翻訳出版を思い立った。EUやCAPの問題のみならず、食と農のグローバル化、国際政治など、様々な切り口から読むことができるだろう。
(市田知子)

若林敬子・聶海松編著
『中国人口問題の年譜と統計:1949〜2012年』
(御茶の水書房、2012年)

 本書は、中国の人口問題に関する膨大な資料集であり、以下の5部構成になっている。T. 人口政策・人口動態についての年譜(1949〜2012年)、U.人口統計基本資料、V.人口・社会学関連の用語・概念・訳語の解説、Wはタイトルが付されていないが、6つの法律・条例全文の和訳(1.中国人口・計画出産法:2001年、2.流動人口計画出産工作条例:2009年、3.上海市人口・計画出産条例:2003年、4.上海市の計画出産報奨・補助に関する若干の規定:2011年、5.社会扶養費徴収管理弁法:2002年、6.中国老人権益保護法:2012年)、X.1.こちらが訪問して研究協力いただいた中国人口・社会学関連の主要研究機関とその代表者及び調査研究地、2.中国における主な人口科学研究機関他。
 中国の人口問題についてこれまで最大の課題は、周知のように量のコントロールであり、「世紀の大実験である」(本書「はしがき」)である“一人っ子政策”は1979年に始まった。そしてこの政策は、2016年1月1日に改正された人口・計画出産法の施行をもって終了した。著者は“一人っ子政策”が、もはや歴史的な役割を終え、現状に即した政策転換の必要があることを「はしがき」で指摘していたが、本書刊行後3年が過ぎてそれが現実となったのである。
 現在、“一人っ子政策”については、その執行過程における人権侵害、一人っ子を失った家族、戸籍登録されなかった「闇っこ」の存在、不均衡な人口構成など、この政策がもたらした深刻な問題状況が厳しく指摘されるところである。だが一方で、著者が指摘するように人口爆発を防いだ「功」(「はしがき」)、そして、人口大国中国において、建国から今日まで、その人口量はどうあるべきか、それをいかに管理するかについて、政策決定者、行政担当者、研究者の模索とせめぎあいの長い過程が存在した。これらをふまえて、“一人っ子政策”の時代を多面的に検討する必要があるだろう。そのことを、T部、U部の豊富な資料は教えてくれる。
 第V部は、事項の背景説明も簡潔になされており、この分野に関心を持つ者にとっては、大変有用な専門用語集である。人口研究の専門的用語のほか、中国の人口問題に関連する領域の事項を幅広く取り上げている。すべての語について、日、中、英の3カ国語表記があればさらに有難い。
 そして、第X部に記載されている中国の研究機関、研究者の多さには驚かされる。ここには、現地の研究者との交流を重ねることで、政策文書や統計資料だけではつかめない、中国人口政策の動向や実態を把握しようとした著者の研究姿勢を垣間見ることができる。
 著者は「あとがき」で、今後、この種の研究を継続する若い日中の研究者がより多くあらわれ、本書を利用、批判することを願っていた。“一人っ子政策”が残した上述の諸問題、さらに、本書でも詳細な資料が提供されている中国の特有の人口移動・戸籍制度をめぐる問題など、著者の研究の継承と展開は今後大いに望まれるところである。本書は、中国についての社会学的研究を志す人が、研究の入り口で必ず手に取るものとなるであろうし、また、今日の問題を歴史的文脈で理解するためにも欠かせないものとなるだろう。
(南 裕子)

山泰幸・足立重和編著
『現代文化のフィールドワーク 入門――日常と出会う、生活を見つめる』
(ミネルヴァ書房、2012年)

 “現代文化”と聞いて、われわれは、いったい何を思い浮かべるだろうか。それは、インターネット、スマートフォンといったメディアであろうか。あるいは、コンビニ、ショッピングモールといった空間であろうか。それとも、最新のお笑いやアニメ、ライトノベルといったコンテンツだろうか。いずれにせよ、現代文化と聞けば、現代資本主義を色濃く反映した、メディアに牽引された流行の消費現象を思い浮かべるに違いない。近年、このようなトレンドをいち早く分析して注目を集めているのが、文化社会学だ。とくに、現在の日本の文化社会学では、英国出自のカルチュラル・スタディーズから現代文化を読み解くのが主流になりつつある。だが、そのようなトレンドだけが、現代文化なのか。また、そのトレンドを最先端の西欧社会理論から読み解くだけが、現代文化の分析なのだろうか。
 本書は、これまでの文化社会学的な見方に対して、人びとのローカルな生活の場のフィールドワークから現代文化をとらえ返す試みである。というのも、現代文化とは、個々具体的なローカルな現場の集積によって展開しているからだ。よって、本書の執筆陣は、日本の伝統的な文化分析である日本民俗学の影響を受けた民俗学者や社会学者から選ばれている。そのような本書は、まず第T部「日常としての現代文化」として、「出産」(第1章)、「地域政策」(第2章)、団地での異文化間の「共住文化」(第3章)、「介助者」(第4章)のコミュニティが取り上げられている。つづく第U部「たのしみとしての現代文化」では、「祭り」(第5章)、「民藝」(第6章)、「頼母子講」(第7章)が、最後の第V部「生きかたとしての現代文化」では、戦後の「引揚者」(第8章)がもたらした文化、落人の墓への「信心」(第9章)、民俗学とエスノメソドロジーを架橋する「エスノメソッド」(第10章)、原子力施設立地点での「住民のためらい」(第11章)が論じられている。一見すると、冒頭に述べた現代文化のイメージから程遠いかもしれないが、執筆者たちは、それぞれのテーマからその文化が現代にいたる成り立ちを追うと同時に、その文化の現代性を浮き彫りにしている。
 タイトルからわかるように、各章とも、執筆者個々人のテーマとの出会いからフィールドワークの過程、その過程での発見、その発見の理論的・実践的な意味が論じられていて、初学者への目配りがなされている。さらに、終章「フィールドワークための10のヒント」と5つのコラムは、より具体的で丁寧な初学者向けのアドバイスになっている。ただ、本書は、入門書にとどまらず、フィールドワークをしながら生活の現場から現代地域文化にアプローチしているという点で、地に足ついたかたちで「現代文化」概念の拡張を図っている。共編者でもある評者としては、初学者だけでなく、専門の研究者にも手にとってもらいたい一冊である。
(足立重和)

田中達也
『中近世移行期における東国村落の開発と社会』
(古今書院、2011年)

 本書は、極めて膨大かつ多様な資料を駆使して、中近世移行期の村落の変容過程とその特質を、開発を切り口として明らかにしようとした力作である。先行研究が、開発による耕地形態の変化と、集落形態や村落社会の変化との連動性を必ずしも明示しえていないと指摘し、集落形成過程を具体的に提示しながら、開発に伴う集落形態や村落社会の変化を把握しようとしている。
本書は、序章と結論の他二つの章、それに補論からなる。
序章は、本書全体の研究課題、研究方法を提示した部分である。それに続く第2章では、畑作地帯である武蔵国榛澤郡荒川郷を事例地として、開発主導者の属性と動向に着目しながら、中世末期から近世初期にかけてこの地域で行われた開発の具体的展開過程を提示し、郷村における景観的、社会的変容過程を明らかにしている。
第3章では、広域的な水田地帯であった越後国岩船郡荒川北岸地域を事例地としている。所与の自然条件、地形条件、利水状況によって開発時期、開発過程に隔たりが存在し、性質の異なった複数の開発形態が連動しながら、この地域の広域的な水田地帯が形成されたことを明らかにしている。広域的水田地帯であるにも関わらず、開発形態の差異に対応して、集落の形成過程は一様ではなく、そのことが集落の社会構成を示す諸側面にも反映されていたと主張している。
第4章は結論であり、第2章、第3章で明らかにしたことを小括するとともに、そこで明らかとなった事実関係をもとに、中近世移行期における開発と村落社会の変容過程が持つ特質として、以下の3点を提示している。@開発対象・形態の革新性。A外在的・外延的存在としての開発主体とその重層性。B開発の広域化と村落の能動的対応。
最後に補論が位置している。現在の栃木県鹿沼市域に位置する村落を事例として、村落構成単位の変容解体過程、そして集村化による新集落の形成過程を確認し、さらには、領主・検地の役割についいても言及している。

一読して、これだけ多様な諸資料を利用し、それらを検討、分析した著者に、敬意を評したい。本書が主として取り上げているのは中近世以降期であるが、それ以前やそれ以後の様々な資料、さらには聞き取りも含めて収集・調査し、注意深く資料吟味を行いつつ、適切に利用しているところは、同時代の文書資料に拘る他の村落史研究者の参考になると思われる。特にその景観の変化を明らかにするという、歴史地理学を専攻してきた著者ならではの視点は、各時代の絵図・地図、写真、聞き取り等を用いて作成した、非常に多くの地図を掲載することで、十分に生かされていると感じた。 村落史研究は、今後ますます地理学との接点を持つ必要があるし、またそうすることで、自然環境を踏まえたより豊かな村落史研究が生まれてくるのではないかという感を強くした。本書より多くを学ばせていただいたことを感謝したい。
(山内太)

守友裕一・大谷尚之・ 神代英昭編著
『福島 農からの日本再生: 内発的地域づくりの展開 (シリーズ地域の再生6)』
(農山漁村文化協会、2014年)

 本書は、内発的発展論を長年にわたり福島を中心に農山村地域での内発的な地域づくりについて調査・分析をかさねてきた守友氏を編者として、震災後の福島県内における復興の試み、および全国での関連する取り組みを紹介した、2014年時点での「日本再生論」である。本書は 第T部と 第U部にわかれており、前半では震災後の福島県内の地域再生に関しての、後半では全国の内発的な地域発展論に関しての諸事例の紹介と理論的総括をおこなっている。研究者のみならず、行政関係者などもコラムを執筆しており、内容は読みやすく分かりやすい。また第U部では、農業問題のみならずエネルギー問題や産業遺産(炭鉱)、B級グルメの問題も取り扱うなどしており、視野を広げてくれる。「内発的発展論は理論が先にあってそこから演繹的に考察していくのではなく、現場、現実の動きがあって、そこから帰納的に考察していくことに特徴がある」(p.196)と守友氏がまとめるように、各論の積み重ねが必要なのである。それゆえに、「ネオ内発的発展論」については「日本での適用にはもう少し理論的検討が必要である」(p.197)という慎重な姿勢をとっている。こうした姿勢に評者も同感である。
 評者は、数年前から共同研究の一員として奥会津(只見町)の山村調査に入っているが、そこで地元の方々から守友氏およびゼミ生の活動を多々耳にしてきた。それらは、長期間にわたって定点観察をしてきたグループならではの評価であり、そうした「信頼感」ともいえる性格の叙述が本書にも垣間見られる。
【主要目次】 第T部 福島発農からの地域再生 序章 東日本大震災後の農業・農村と希望への道 第1章 「まめで達者な村づくり事業」3・11の前と後―鮫川村 第2章 住民による放射線量調査と新たな地域づくり―伊達市霊山町小国地区 第3章 住民自治組織による里山再生・災害復興プログラム―二本松市東和地区 第4章 原発災害からの再生をめざす村民と村―飯舘村 第5章 原子力災害に立ち向かう協同組合 第U部 内発的な地域づくりの展開 序章 内発的な地域の発展とは何か―地域の再生と内発的発展論 第1章 地域産業連関からみた口蹄疫被害とその復興―宮崎県川南町 第2章 農山村発コミュニティ・エネルギーの胎動 第3章 産業遺産を生かした産炭地域の再生―北海道空知地域 第4章 地域ブランドづくりとB級ご当地グルメ―栃木県宇都宮市 第5章 高齢化日本一の村でのIターン促進活動と地域支援―群馬県南牧村(※その他、コラムあり)
(三須田 善暢)

国連世界食料保障委員会専門家ハイレベル・パネル 著
 家族農業研究会・(株)農林中金総合研究所 共訳
『家族農業が世界の未来を拓く―食料保障のための小規模農業への投資―』
(農文協、2014年)

2014年は、国連が定める国際家族農業年であった。国連は、食料保障、持続的な資源利用、および雇用創出等において家族農業を高く評価し、持続可能な農業のモデルとして位置づけている。本書は、この国際家族農業年を前に、家族農業や小規模農業に関する国際社会の関心を高めるために執筆された報告書『食料保障のための小規模農業への投資』(2013年6月)の全訳である。この報告書は、国連の世界食料保障委員会が専門家ハイレベル・パネルに執筆を要請し、英語やフランス語等の8か国語に翻訳されている。
残念ながら、日本ではメディアや政界、学界でも大きく取り上げられることはなかったが、2014年には米国を含む世界50か国以上で国際家族農業年国家委員会が組織化された。また、発展途上国だけではなく、EU等の先進国でも小規模な家族農業の重要性が確認され、スペインでは家族農業を支援する法案が2015年の国会で審議されている。本書は、こうした世界的な潮流が生み出される際に、基本的なデータや視角を提供した最も重要な報告書のひとつである。以下では、本書の構成と主要な論点について紹介したい。
 本書は、序章と4つの章で構成される。まず、「第1章 小規模農業と投資」では、小規模農業の定義と特徴について整理が行われ、本書が議論の対象とする投資の範囲と投資主体について言及されている。さらに、小規模農業に対する投資が制約されている現状にかんがみて、その制約要因を類型化している。
 「第2章 なぜ、小規模農業に投資するのか」では、小規模農業に投資を行う社会的正当性を検討するため、小規模農業の役割や重要性を確認している。また、経済学において無批判に受け入れられてきた経済発展モデルと関連した農業の構造変化の経路についても、再考している点が興味深い。
 「第3章 どのような投資が必要か」は、小規模農業に対する投資の内容について、財、市場、制度の3つの分野に分けて議論している。注目されるのは、小規模農場における生産的投資だけではなく、小規模農業に関連する市場アクセス、金融サービス、公共投資、研究開発、土地制度、小規模農家の組織化等についても言及している点である。
 「第4章 小規模農業―投資のための戦略的アプローチ」は、専門家ハイレベル・パネルによる各国政府、援助資金提供者、および世界食料保障委員会に対する勧告になっている。特に、同パネルは、小規模農業経営自身による投資を支援するために、各国政府による国家戦略の策定と予算措置、国内制度の整備を求めている。
 本書は、家族農業や小規模農業を再評価し支援する国際社会の潮流を読み解くうえでも、また日本の「農業構造改革」の歴史的位置づけを見極めるうえでも、貴重なデータと議論を提供している。是非、一読をお勧めしたい。      (関根 佳恵)

小椋 純一『森と草原の歴史―日本の植生景観はどのように移り変わってきたのか―』(古今書院、2012年)

森林や草原などの植生景観は、古くからあまり変化せずに今に至っていると思われることも多い。しかし、少し調べてみると、それぞれの時代の人間の影響などにより、概してこれまでに大きく変化してきていることがわかる。そのことは、たとえば同じ場所を撮影した古い写真と近年の写真を比べてみても、簡単にわかることも多い。あるいは、それは文献や古い地形図や江戸時代以前の絵図類の考察などからもわかる。  植生の歴史については、湖沼の泥炭堆積物などに含まれる花粉をもとに考える花粉分析から過去数千年、あるいは数万年以上の概要が語られることも少なくないが、本書は、おもに中世以降の比較的近い時代を中心に、さまざまな方法により日本の植生景観が今日までどのように移り変わってきたのかを考えたものである。  本書第T部では、一部に樹幹解析などの新しい手法による考察も加えながら、筆者が早くから用いてきた絵図類、旧版地形図、古写真、文献などを基にした考察をまとめている。一方、第U部では、植生史に関する近年の研究動向を踏まえつつ、とくに強調したいことを2つの章に分けて述べている。それはともに近年大きく変わりつつある日本の植生の歴史についての常識に関することで、一つは草原に関すること、もう一つは神社林に関することである。  そのうち草原については、今日の日本では見かけることは珍しいが、近年、さまざまな分野の研究者による研究から、かつては多くの地域で草原も重要な植生の要素であり、地域によっては森林よりも草原が多いところも少なくなかったことなどがしだいに明らかになってきている。本書では、その草原に関して、明治以降の国の統計や微粒炭分析などをもとに、日本の草原の歴史や、かつての草原の広がりについて考えている。そのうち、微粒炭分析からのアプローチは、まだ研究途上のものではあるが、それにより縄文時代より日本の植生に占める草原の割合は、近年考えられてきている以上に大きかった可能性が高いことも見えてきつつある。  一方、クスノキやシイやカシなどの広葉樹の大木や珍しい木々が見られることが多い神社林については、ふつうの里山などよりもはるかにそうした植生が古くから続いてきたと考えられることがこれまで一般的であった。しかし、多くの神社林の歴史を調べてみると、その大部分は明治の頃まではマツやスギなどの針葉樹が中心の植生であったところが多く、それがしだいに今日の植生へと大きく変わってきたところが多いことがわかる。  なお、植生景観はそれぞれの時代の社会や人々のくらしを映す鏡のようなものでもあることから、その歴史を正しく認識することは、各時代の人々のくらしや社会の有りようなどをより正しく理解することにもつながるものである。そして、それは将来の望ましい植生景観、またその背景となる社会や文化を考えることにもつながるであろう。  (小椋 純一)

宇根豊・木内孝・田中進・大原興太郎ほか『本来農業宣言』(コモンズ、2009年)

 農業は人間の食べ物を生産するだけではない。それは、生態系や生物多様性の維持、洪水や土砂崩れの防止、水質浄化の役割を果たすなど、多様な「社会的・文化的なサービス」を提供している。しかし、戦後日本では農業の近代化が叫ばれるなか、農業体系における物質・生命の循環のつながりは絶たれ、農業をとりまく環境は破壊されてきた。また農業は生産性や効率性を重視する産業の一つとして位置づけられ、“金儲けの手段”として見なされてきた。こうして現在、もともと農業が持っていた本源的な意味を問い直し、自然生態系との調和を図る農業の「持続可能性(サスティナビリティ)」が求められている。そこで本書は「自然が本来有する循環力と生命維持機能を活かしつつ、長期にわたり経済価値を生み出し、すべての人びとに豊かな生活をもたらす農業の営み方」を「本来農業」と定義し、それを具現化する10の実践活動――集落全体での有機農業への取り組み、消費者との「顔の見える関係」を目指す体験農園や産地直売など―――を紹介する。  また本書では「本来農業」を取り戻すための10の提言も行う。その提言は、以下の通りである。@自然や福祉にかかわる仕事に従事する「社会奉仕年」を導入する、A「農的暮らし」の多彩な取り組みを広げ、インターネットなどで共有し、「協働とネットワーキング」を積極的に促す、B「環境支払い」の実証試験を複数のパイロット地域で始める、C「持続可能な本来農業」を日本農業の基本政策に据え、農業にかかわる多くの関係者・団体の参画によって長期政策ビジョンを策定する、D「持続可能な社会」の根幹に農業を位置づけ、すべての国・地域が最低限守るべき「アグリ・ミニマム政策」を導入し、その重要性と地域の多様性を考慮した農業政策を各国に提起する、E「体験型」食農教育を小・中学校の基本カリキュラムに組み入れる、F新しい価値観をもった農業の次世代地域リーダーを育成する高等教育機関を設立する、G「持続可能な技術」を開発する農家やNPOなどが参加する研究組織を設立する、H持続可能な農業を支える「農業ビジネス・アカデミー」を全国的に組織する、I「生産者と消費者のネットワーク」を築き、生産者の「顔の見える」農業生産を実現し、「市民参加型」農業の普及を図る。  以上のような10の提言を踏まえると、私たち消費者は、ただ“食べるだけの人”に成り下がらず、積極的に農業を支えるアクターになることが求められている。つまり消費者という「非農家」が農業の生産現場に深くかかわることによって断絶された農と食のつながりを回復させていくことが期待されているのだ。さらに農業において人間が一方的に自然を利用するだけでなく、自然生態系における物質・生命のつながりを図った農業を構想することも期待されている。こうして「人間同士の関係性」だけでなく、「人間と自然の関係性」の調和を実現する農業が「本来農業」なのである。                 (舩戸 修一)

佐々木衞『現代中国社会の基層構造』(東方書店、2012年)

本書では、長年にわたって中国農村社会を詳細に調査研究してきた筆者が、主として2000年代後半の構造変動を報告している。全体は二部に分かれ、第一部では「試論的枠組み」と題して、その前半で、筆者が掲げる「基層構造パラダイム」の視点から、現代中国におけるグローバル化の影響をどのようにとらえるか、を論じている。後半では、1990年代後半に河北省三河市で実施した調査研究を再考したもので、村の会計記録の分析や家族調査結果によって激動期の農村社会の構造変動を明らかにしている。第二部は山東省青島市のモノグラフで、2000年代に急速に産業化と都市化が進展して大きく変貌した様相を、漁村の都市化、新たに形成された住宅地である社区、朝鮮族ネットワーク、などの具体的な調査分析によって明らかにしている。さらに補論として、稲垣正氏による青島市の社区に対する調査票調査の分析結果が収められている。  日本人研究者による中国農村社会の調査研究は、戦前の『中国農村慣行調査』をはじめとして、1930年代から連綿と続けられてきているが、改革開放後は質量ともに拡大して、多様な研究分野から多数の研究者が現地調査をおこなってきた。1990年代以降は中国側研究者との共同研究も盛んである。筆者はそうした流れのなかで先導的な役割を果たしており、本書は最新の研究成果を示している。中国の高度経済成長は世界に例をみない長期間にわたっているが、とくに2000年代に入ってからは農村部での変化が大きく、生活の改善を図る「新農村建設」や集合住宅へ転居する「社区建設」が進められている。社区とはcommunityの中国語訳だが、都市部の社区と農村部の社区とでは、性格がかなり異なっており、とくに現在進行中の農村社区の本格的な調査研究が求められている。こうした激動期に現地調査の積み重ねによって得られた研究成果は貴重である。  また、筆者の野心的な試みである「基層構造パラダイム」とは「社会を構成する規範秩序の構造」から中国社会をとらえようとするモデルだが、「持ち寄り関係」や「本村人間の均分主義、よそ者に対する格差主義」という分析枠組みとともに、激動する中国社会をとらえる論理としてきわめて興味深い。そして、本書の魅力は、こうした理論枠組みが抽象的あるいは思いつき的に示されるのではなく、手堅い実証調査によって裏付けられていることである。そういう意味でも、本書の補論は、調査票調査がモノグラフ研究のなかで理論と実証とをつなぐあり方を示す労作である。  本書は、最新の中国農村社会それも大都市近郊農村の現状を見きわめ、今後を展望するうえで欠かせない参考文献だといえるだろう。                (小林一穂)

安藤光義、フィリップ・ロウ編『英国農村における新たな知の地平―Center for Rural Economyの軌跡』(農林統計出版、2012年)

本書は、英国ニューカッスル大学Center for Rural Economy(CRE)をベースとして活躍する研究者による諸論文を編集したものである。全14章で構成され、うち2章はこのセンターに滞在経験のある日本人研究者によって執筆されている。読者の理解のためには、はじめに(村上佳代氏)に続き、これらふたつの章、第13章(ネオ内発的発展論、小田切徳美氏)、第14章(都市・地域計画、後藤春彦氏)を読むことで本書全体の基本概念を理解することができるだろう。 ■本書の内容は、基本的に農村振興に関わる理論的・実証的研究であるものの、その具体的テーマは実に多岐にわたっている。農村振興、持続可能性、知識や文化、大学と専門家の役割、地域食品、口蹄疫などである。また重要なのは、各論者が、これら現実的なテーマを論じながら、現代の重要な理論的潮流を引用・参照しているという点である。具体的には、アクターネットワーク理論(第1章、第2章)、実験室の知識をめぐる科学技術社会論(第3章)、Agency(行為主体)論(第4章)、Cultural Economy論(第5章)、再帰性(Reflexibity)と専門家論(第6章)、ネオ内発的発展論と社会関係資本(第7章)、地域アイデンティティと原産地呼称制度(第8章)、自営業世帯(Business Household)の柔軟性(第9章)、Granovetterの弱い紐帯論(第10章)などである。 ■いずれも、近年、欧米における農村研究等において重要な基本概念であり、英国農村という文脈に即して事例を取り上げつつも、各論文はこれら現代的な理論研究の成果を援用しつつ、議論が展開されている。本書を読むことで、欧州における現代農村研究が、どのような理論を踏まえて構成されているのかが理解できる。ただ、理論的潮流の盛衰はめまぐるしいものがあり、2000年頃に大いにもてはやされたアクターネットワーク理論も、いまや批判の対象となっている。なお、11章と12章は、フードチェーンや広域的土地マネジメントといった分野において、社会科学がいかなる貢献ができるのか、また学際的共同研究の可能性と課題を論じており、いわばメタ理論の章といえよう。 ■評者が最もこころを打たれた点のひとつは、「序」に示されたCREの哲学および同センターが蓄積してきた農村振興に関わる人的ネットワークの広がりである。地域における大学が果たす役割が問い直されている昨今において、範とすべき理想型のひとつがここに示されている。この熱い息吹の一端に触れるだけでも、本書は一読の価値がある。 【目次】 はじめに 「関係性としての空間」:CREが切り拓く農村研究の新たな地平 [第T部]農村を理解するための理論構築 第1章 農村経済―進化論的パースペクティヴ― 第2章 縫い目のない網を織る:ネットワーク分析と農村経済研究への適用可能性について 第3章 持続可能な知識 第4章 統制された自由:市場と国家、農業と環境 [第U部]ネオ内発的発展論 第5章 文化経済と地域開発 第6章 再帰的な専門家と政策プロセス 第7章 大学・知識経済・「ネオ内発的農村発展」 [第V部]小規模農村ビジネスの社会学 第8章 「典型的な地方の食品」とは何か―農業食料セクター・農村セクターの食に基づく開発戦略における地域アイデンティティの検証― 第9章 口蹄疫病が自営業世帯に与えた影響と対応の実相 第10章 “弱い紐帯"の強さ:スコットランドのハイランドおよび島嶼部における事業主の社会的ネットワーク [第W部]次の農村研究に向けて-科学技術研究のパースペクティヴ- 第11章 持続可能なフードチェーンのための社会技術的革新:社会科学の役割 第12章 広域的土地マネジメント問題理解のための包括的なアプローチ―学際的な取り組みの枠組み― [第X部]日本の農村研究への応用 第13章 イギリス農村研究のわが国農村への示唆 第14章 都市・地域計画の分野からの視座 引用文献一覧                                  (立川 雅司)

進士五十八監修『実践ガイド 田園自然再生―よみがえる自然・生命・地域』(農山漁村文化協会、2009年)

 本書は田園自然再生に取り組む全国各地の人々の事例からその手順や方法、工夫などを学ぶ実践ガイドである。田園自然再生活動とは、歴史的に人と自然が相互作用するなかで築かれてきた農的自然の回復を目指す活動である。そのため、単なる自然や生物生息空間、生物多様性の回復ではなく、農業農村の経済的・社会的活性化を視野に入れた活動であることが重要であるとされる。  本書の構成は以下の通りである。 総論 いまなぜ田園自然再生か 第1章 自然を守る 第2章 生命を観る 第3章 農で再生する 第4章 ムラを興す 第5章 活動を進める 第6章 今後を展望する  まず総論では、近年の環境行政の動向と、田園自然再生を農業者や農村住民のみならず都市住民を巻き込んだ国民全体のムーブメントとして捉える必要性が示される。第1章「自然を守る」は、メダカやホタル、カエルなど、かつては身近に存在していたが、絶滅の危機に瀕している生物を育むために全国的に展開している活動が紹介される。この自然再生活動には農家、教員、公務員や定年退職者、主婦といった「ふつうの人びと」が参加し、実践活動を通じて人と生きものの関係を考える端緒となっている。第2章「生命を観る」では、田園自然の生態系を観察・調査する活動事例が紹介される。いずれも田んぼの生きものの単なる観察にとどまらず、生態系を、それを取り巻く環境との関連で総合的に判断することで再生活動へとつなげていくプロセスとして捉えられている。  第3章「農で再生する」で紹介される事例は、農的自然、すなわち二次的自然が守ってきた地域の生きものの多様性を見直し、近代化農業のあり方を問い直そうとする活動である。続く第4章「ムラを興す」では、田園自然の再生によって農業収益と村の活気を取り戻した事例が紹介される。その多くが都市住民との交流を通じて外部者の目線から地元の長所を発見する重要性を指摘している。  第5章「活動を進める」は、田園再生活動を進めていくうえで必要なネットワークの構築、アンケートやホームページ、紙芝居を用いた広報活動、さらに資金繰りなど活動の具体的な手法を紹介している。最後の第6章「今後を展望する」は、2008年に行われた第5回田園自然再生シンポジウムと各種活動団体の紹介である。  全国各地の活動事例に通底するのは、農家―非農家、農村住民―都市住民、生産者―消費者、生物―環境、自然―人間という種々の二項対立を超越する全体性の追求であり、それこそが総論でゴールとして提示されるところの「トータルな“ふるさと・田園”の再生」であることに気づかされる。本書は、田園自然再生活動の動向を「トータルに」知るうえでまず手に取るべき一冊であるといえよう。                (奥井亜紗子)

内田鉄平『近世村社会の変容―微視(ミクロ)の村落史』(日本経済評論社、2012年)

 拙著は、近世から近代へと移行する社会の変容を豊後国日田郡五(いつ)馬(ま)市村(いちむら)という、ひとつの村を取上げ分析したものである。「村社会」という江戸時代特有の共同体社会のなかで村人どうしの社会的関係が、近代社会をむかえるにあたりどのように変化していくのか、そのことを確認する作業として、従来の規範から逸脱する現象について、変容の過程を詳細にみていくため、ひとつの村を分析対象とした。分析を行うにあたり、村社会を取り巻く地域の状況や、村請制の矛盾と村社会の実態、変容の微細な兆候を示す家・家族のあり方を視座に三部構成とした。以下、各章の題目とその内容を示していきたい。 序章  本書の課題と目的 第一部 日田郡地域社会と村社会  第一章 近世後期における豊後国日田郡会所と村社会  第二章 日田郡における筋の編成と地域  第三章 日田郡における楮皮販売と地域社会 第二部 村請制村にみる村社会の実態     第四章 近世後期、隣村間にみる地域社会の形成過程     第五章 庄屋の在村化と村社会  第六章 村社会における村組の役割 第三部 百姓成立からみる村社会の変容  第七章 女性筆頭人からみる村社会の変容      第八章 村の独り身対策について  第九章 村社会における「百姓成立」  第九章(補論)村社会における寺院と厄介の出現  序章では分析対象地である五馬市村の村内景観や田畑での生産状況、人別の変化などについて紹介している。第一章では日田郡役所の下部組織である会所が郡内の庄屋によって運営されており、会所が地域において果たした役割を検討した。第二章では行政区分として設定された日田郡内の筋について、信仰や近世以前の地域のまとまりを参考に編成されたことを指摘した。第三章では奥五馬筋と役所との幕末期の楮皮販売自由化をめぐる過程から、役所が設定した行政区としての筋が村々の地域として結束、機能している事例を紹介した。第四章では五馬市村と隣村との社会的関係から地域社会がどのように形成していくのか、その過程を分析した。第五章では五馬市村の庄屋と村社会の関係を考察し、村内の様々な社会的関係のもとで村が運営されていることを指摘した。第六章も第五章と同様に村内部の組織である村組に注目し、貢納・婚姻などが村組を介して行われている事実を示し、村運営における村組の重要性を分析した。  第七章では、女性が家の筆頭人(当主)となる従来の規範と逸脱する事例を紹介し、女性当主の出現と村社会の状況を考察した。第八章では村社会の一人暮らしについて、出現過程とその後を分析し、村社会や家族・親類の対応について指摘した。第九章では数十年に及ぶ一つの家族に注目し、村社会が示す「百姓成立」について検討した。また第九章の補論として村社会の寺院を取上げ、寺院による互助機能について紹介した。                                       (内田鉄平)

谷富夫・山本努編『よくわかる質的社会調査プロセス編』(ミネルヴァ書房、2010年)

本書は、日本人社会学者による日本社会の調査体験に基づいた質的社会調査のテキストブックとして編まれたものである。本書全体が、設問から、実査を経て報告書の完成までの一連の社会調査のプロセスに合わせて構成されている。各章は以下のとおり。T質的調査の方法と意義、U名著に学ぶ質的社会調査、V社会調査のタイオポロジー、W問いを立てる、V先行研究に学ぶ、Y技法を選ぶ、Zフィールドに入る、[フィールドワークを楽しむ、\フィールドノートを作成する、]インタビューを記録する、?ビジュアルに記録する、?インタビュー記録を利用する、]V、ビジュアルな記録を利用する、]W、報告書を作成する、]X、調査倫理をふまえる。  本書は、社会調査士標準カリキュラム(学部)のF科目(質的な分析の方法に関する科目)とG科目(社会調査の実習を中心とする科目)に対応している。そのため、質的調査といっても、インタビューやライフヒストリーに特化した内容ではなく、いわゆる量的調査との差異に十分な配慮をしつつ、調査プロセス上の各項目がバランスよくまとめられているのが本書の特徴である。本書は『よくわかる質的社会調査 技法編』との姉妹編であるが、本書だけでも質的調査の全体像がわかるように構成されている。  質的調査の方法といえば、従来は個人の「芸」や「裏技」として、調査報告の陰に隠れてしまいがちであったが、本書では質的調査プロセスの子細について、農村や都市における豊富な調査経験を踏んだ執筆陣によって丁寧に説明されている。フィールドノートの取り方や、その情報を電子ファイル(Microsoft Excel)にまとめる方法からはじまって、依頼状やお礼状の実例なども掲載されているだけでなく、写真やビデオの撮り方、調査対象者との関係の取り方や調査倫理についても、かなりの紙数を割いて記述・解説されている。記述の合間には、調査上の失敗談や、難しい判断に直面した経験などについても、率直に述べられている。  質的調査は各人の個性が前面に出やすく、複数の執筆陣によって1冊の本にまとめるのは容易なことではなかったと想像されるが、本書では各執筆陣の経験のなかに「調査プロセス」という1本の柱を立てることで、この難題をクリアしている。このように本書は、調査実習などで初学者が、現在調査プロセスのどの段階にあるのかを確認しながら調査できるという意味において有用であるばかりでなく、ある程度調査経験を積んだ者が、自分の調査を振り返る意味においても、有益であるだろう。      (荒川 康)

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